フィリピン:ショッピング・モールでは「性も売買」

マリテズ・サイソン著

つばを後ろにしてかぶった野球帽、ブロンドに染めた髪、ピアスした右耳。エドウィン(実名ではない)はマニラの多くのショッピング・モールでぶらつくティーンの典型のように見える。

午後5時。彼はエスカレーターに乗り、ショッピング・モール3階へ移動。ここは、フィリピンの首都にある混雑したモールの一つ。エドウィンと似たような格好をした少年や最新ファッションに身を包んだ少女が沢山いる。取り交される挨拶には暗号が使われる。軽くうなずいたり、ウィンクをしたり、野球帽を傾けたり。まわりの通行人はほとんど気がつかない。少女らは近くのカラオケTVバーやカフェにたむろする。少年らはモールじゅうに設置されたスチール製レールの側に立っているを好む。煙草を吸っている子も数人。

この一見何の問題もなさそうな光景。 が、エドウィンがそうではないことを指摘する。カラオケ・バーにもカフェにも中年の男がおり、やがて少女が近寄ってきてビールを一、二杯一緒にかわす。30分後、中年男と少女は組になって店を後にする。 その間、少年らはその様子を眼で追うか携帯電話にメッセージを書き込むのに忙しい。「あの子達は、少女を買いたがっている誰かと交渉中なんだ」とエドウィンが説明する。「今では取引を隠すのがずっと簡単になったんだ」。 スキー帽をかぶった背の高い少年の脇に男が立っている。ポン引きはあいつだよ、今、売春宿と連絡をとっているのさ、そうエドウィンが言う。

どんな人とでも目を合わせては駄目だよ。それが全ての始まりなんだから。見つめていただけで、知らず知らず性の売買の世界に引き込まれてしまう者もいるんだ。そして、断れないような申し出を受けてしまう子もいる。「携帯電話を買ってあげるからと誘ってくることもあるんだ」。そう警告するエドウィンには、モールで繁盛する性産業の一部始終が解っている。彼も16歳の時、同年齢のいとこにより引き込まれてしまったからだ。
「いとこは僕のヒーロー的存在だった。何処にでも僕ついて行った。だから、一緒にモールでぶらつこうと言われてその通りにしたんだ」。

最初は楽しかった。従弟や周りのティーンは、食べ物や最新ファッションに使う金をいつも沢山持っていた。そんな遊び金をどうやって手にいれたのかが解ったときは不快に思った。
それでも、エドウィンは従弟達と一緒にいることにした。それで空しさが補えたからだ。育った家庭には暴力が蔓延り、両親は結局離婚し、祖母と暮らすことを余儀なくされた。7歳のとき、近所の男二人に性的虐待を受けた。

実際に身体を売ったことは一度もないが従弟らには仲間の一人として認められていた、麻薬が商売の一部だった、とエドウィンは言う。素面のときは将来のために貯金しようという子もいるけれど、必ずといっていいほど実現したためしはないよ。麻薬中毒になったり、若くして親になり売春だけが飯の種と考える子もいるんだ。

一年程ぶらつくとエドウィンは足を洗いたくなった。今日、彼はランデュヤンという子供の人権擁護を目的とするNGOが育成した八人の若い指導員の一人である。 彼の仕事の一つに、ティーンが他の生き方もあることを納得するよう手助けすることがある。それでも断固として性産業に身を置きたがるティーンには少なくともSTD(性感染症)やHIVに対する予防をすべきだと助言する。いつでも助けが必要ならランデュヤンは君達のために大きく門を開いて待っているからね、そう彼は子ども達に伝えている。

デニムのスカートにピチピチのブラウスという格好の化粧した少女が側に来てエドウィンに挨拶をすると去っていった。「あの娘はまだ14歳で先週はSTDの治療が受けられるよう助けてあげたんだ」。

こうした若い指導員プロジェクトは1980年代に始った。きっかけは、子供の人権助長擁護センター(チルドレンズ・ラボ)がストリート・チルドレンや若い性産業従事者に「オルタナティブな避難場所」を与える必要があると認識したこと。ランデュヤンのエグゼクティブ・ディレクター、イレーン・フォナシア・フェリザ女史によると、「性産業従事者の中でも子供達が最もHIV/AIDS」や他の悪習に影響されやすい。その数は想像を絶するもので、フィリピン・リソース・ネットワークの1996年統計によると、150万のストリート・チルドレンのうち6万が売春をしている。

ショッピング・モールにおける性の売買は1980年代には既に存在していたが、路上における売買の方が顕著だったため、モールでの問題が優先視されることはなかったとランデュヤンの運営幹部、ラミル・エスゲラ氏が説明する。だが、マニラのストリップ場が閉鎖され性産業従事者が他へと散らばると、年少組はショッピング・モールの方へ流れ込んだ。フォナシア女史によると、首都マニラのモールはほとんどが出逢いの場所になっている。「モールを一つ見ただけで、他のモール全ての状況も把握できます」。

ランデュヤンによる介入方法を考える上でエドウィンのような若い指導員らの存在がどんなに貴重であったかとフォナシア女史は語る。「若い指導員らによりランデュヤンではソーシャル・ワーカーのあるべき姿を教えてもらっています。ランデュヤンがストリート・チルドレンや子供達の問題について如何に理解していないか、気づかせてくれるのです」。指導員らはランデュヤンによる介入がモール付近の無断居住地で始められるべきとフォナシア女史らに提案したという。モールをぶらつくディーンのほとんどがそのような地区に住んでいるからだ。今や、ランデュヤンは、バランゲイ(地方自治体の最少単位)の公務員や両親の協力を得て無断居住地へと足を運ぶ。路上劇場など様々な芸術様式を通じてティーンによる妊娠、性的虐待、売春等について問題喚起をしている。

子供達をショッピング・モールや路上に追いやる主な要因に「自分達の言うことにちゃんと耳を傾けてくれない」という感情が子供達にあることをフォナシア女史は指摘する。「(子供達は、)話しかけてくれてもいいけれど僕たちが理解できる言葉でね、と訴え続けているのです。(性の売買を繰り返すことで)何を失おうとしているのか、子供達には知る必要があります」。
子供達の多くは家庭での暴力や虐待のせいで家出をしてしまう。フィリピン社会福祉開発省が2000年に保護した子供の犠牲者1749人のうち、47%にあたる5047人が家庭で性的虐待を受けていた。

他の要因として消費文化があるとラミル氏が指摘する。ショッピング・モールやメディアが美化する消費文化がティーンを金儲けが容易にできる売春に走らせているというのだ。
「一昔前まで、ティーンが欲しがるものはスウォッチだった。それが今では携帯電話になってしまった」。

子供による性の売買は11歳という若さの従事者がおり、社会の階層を超えたものになっているとランデュヤンのプロジェクト・マネージャーのアラン・オグス氏は言う。同氏とフォナシア女史は、経済の悪化に伴い性産業に従事する子供の数が増加すると予想する。「性産業従事者が若くなり、報酬も少なく、そして危険なセックスが増えるということです」とフォナシア女史。たった一度の食事にありつくためにセックスを提供するケースも知られている。

青年による子供の人権擁護活動は「アララング・ハンドック・パラサ・マガバタ」(子供達の授業)という実験プロジェクトにおいても中枢を担っている。同プロジェクトの目的は5歳から8歳までの窮乏状態にある子供達にオルタナティブ教育を提供すること。これは、ECPAフィリピンが行っており、週2回、もしくは合計6時間、若いボランティアらが先生となり、学校に行かれる年齢に達しているのに貧しくて行かれない子供達を教えている。子供達は、読み(Reading)、書き(WRiting)、計算(ARithmatic)の3Rだけではなく、人権(Rights)を含めた4Rを学ぶ。16歳から21歳のボランティア先生がプロジェクトむけに独自で授業内容を開発し、7月から12月まで教鞭を取る。

マーガレット・デ・パズ(16歳)は子供達と一緒にいることで「人生の小さなことにも感謝する」ことを学んだと言う。将来先生になるのを夢見るマーガレットには、忘れられない出来事がある。授業後のこと、「生徒」の一人が挨拶をした。 先生、さようなら、という声は手押し車の中からだった。「先生、これが僕らの家なんだ」。

 

 
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